アンナと秀樹の対話

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アンナ

To 秀樹 | E-mail
03/06/2017 22:33

秀樹様

あなたの作品を拝見してその美しさに圧倒されました。

骨を寄付したいのですが、受け付けていらっしゃいますか?
自分の死後に、骨をアート作品にしてくれる人を探しています。

まだ死ぬ予定はないのです。でもこればかりは誰にも分かりませんね!

あたたかい敬意をこめて
アンナ


Re: 骨
徳重秀樹

To アンナ | E-mail
03/07/2017 02:29

アンナ様

メールをありがとう。

なんとも不思議な申し出ですね!

あなたは骨花になりたいのですか?
それとも何か別のカタチのものに?

まずはあなたのことを知る必要があります。
あなたの人生を知らずにアート作品を作ることはできません。
よろしければ、あなたについてもっとお聞かせいただけませんか?

敬意をこめて
秀樹


Re: 骨
アンナ

To 秀樹 | E-mail
03/07/2017 23:05

秀樹様

私が骨花になりたいか?なんて思索にふけりたくなる素敵な質問でしょう・・・

その答えを探しに一緒に心の旅に出てもらえませんか?あなたがアートを捧げてくれれば、私はあなたに命を捧げてもいいと思っています。

私は人生の謎を追い求めるのが大好きな人間です。 本を2冊出しました。次回作はアートやアーティストの人生の捉え方などについて書いてみたいと思っています。 あえて坂道をのぼったり、自転車をこいで上がるのも好き。新しい視点から物事を見るきっかけをくれることなら、どんなことにもチャレンジしたいです。

私は現在、シンガボールに住んでいます。先日『アジア文明博物館』へ難破船を見に行った際、その展示物の中に骨を使った美術品がありました。それを見て、骨のアートの素晴らしさに気づかされたのです。

「自分の骨を使ってほしい」そう申し出た人は今までいませんでしたか?私はごく自然な行為だと思います。臓器は必要な人に提供し、骨はアート作品に提供し・・・肉はミミズに提供する。(ミミズって不思議な生物なんですよ!満腹になってもまだ食べものを探してしまうってご存じでした?かれらはどんな力に突き動かされて食べ物を探すのでしょう?)

アンナより


Re: 骨
徳重秀樹

To アンナ | E-mail
03/09/2017 16:46

アンナ様

確かにそうですね。
日常生活において「視点」を変える機会はたくさんあります。
鋭い牙も翼も持たない人間にとって、最大の能力は想像力です。我々人間は、想像力を使って「視点」を変えることができるのです。

例えば、もしも僕が蝶の幼虫だとしたら・・・サナギになると姿を変えます。イモムシから成虫になると、足の数も目の数も、口の形も変わります。食べる物も変わり、そして体の動かし方も変わる。一度の生で二つの異なる「視点」を持つ。ぼくからすればそれは、いちど死んだも同然です。
想像することで、生死について未知なる見方を与えられるわけです。僕たちの人生だって、たった一度きりだとは誰にもいえないでしょう。

秀樹より


Re: 骨
アンナ

To 秀樹 | E-mail
03/11/2017 19:42

秀樹様

私たちの心の旅も一度とは限りませんね。でも、一つひとつの瞬間やそれぞれの視点は、唯一無二だと思いませんか?ひとひらの雪片も、すべての生命体も、どれも同じものはないと考えるとワクワクします。

想像力があれば視点を変えることができる、私もそう思います。(ある程度まで) 現実を変える力さえあると信じています。
未来は柔順で、その形を私たちは目を閉じたまま作っています。私は、様々な人に未来図を想像してもらい、今を生きるうえで必要な決断ができるようお手伝いする仕事をしています。

もしも、ひとつの視点がひとつの新しい生を意味するならば、死ぬたびごとに私たちの人生は豊かになりますね!

それが事実なら、 私は今日にでも骨花になることができます。すぐにでも始めますか?骨花は何を見ているのでしょう?

アンナより


Re: 骨
徳重秀樹

To アンナ | E-mail
03/17/2017 00:40

アンナ様

おもしろい!
「視点」はとても重要なテーマです。芸術においてももちろんそう。

あなたの「視点」を僕も見てみたいです。
僕と一緒に、いくつかの試みを実践してみませんか?

1.
こんどの日曜の正午、天気を感じてみてください。
日の光、風、雨、土、温度、湿度など・・・
同じ地球のもと、 僕も同じことをしてみます。
(日本時間は午後1時)

2.
過去に経験したあなたの「ひとひらの雪片」を思い出してください。

子供時代、どこで遊びましたか?公園?遊び相手は?楽しかった?
一番好きなオモチャはなんだった?
ケガをしたことは?
どんな服を着てました?
どんな匂いが好きでしたか?
病院に行ったことは?
どんな鉛筆を使いましたか?
恥ずかしがり屋でしたか?
お母さんに秘密にしていたことはありましたか?
プレゼントをもらったことは?
宝物は何でしたか?

覚えていることを教えてください。

秀樹より


Re: 骨
アンナ

To 秀樹 | E-mail
03/17/2017 12:59

秀樹様

喜んでお答えします。

近いうちに

アンナより


たった今
アンナ

To 秀樹 | E-mail
03/19/2017 13:13

秀樹様

あれから思いついたことを素早くメモに書きつけました。私の「ひとひらの雪片」について、午後にでも書いて送ります。この瞬間を分かち合えることができて嬉しいです。

アンナより

note
Re: たった今
徳重秀樹

To アンナ | E-mail
03/19/2017 13:21

アンナ様

僕も同じ時間を共有できました。ありがとう。
その時の映像を撮ったので、あとで観てください。

良い午後を

秀樹より


Re: たった今
アンナ

To 秀樹 | E-mail
03/19/2017 19:03

秀樹様

以前に送った私のメモが読みづらかったと思うので、正午に私が感じたことを以下にまとめました。場所はシンガポールのフォート・カニング・パークです。

‐ うなるような空気に包まれる感じ。空気は湿気で重くなり、動き回っている。涼しい風のように同じ方向からではなく、いろいろな方向から吹いてくる。「ミクロの風」は濃く、そしてあたたかく感じられる。
‐ はっきりと、でもかすかに霧雨の匂いがする。インドネシアやマレーシアでヤシ畑を燃やしたような
‐ セミの鳴く音。鳥はハイピッチで繰り返し鳴き、しまいにはトリルになる様子
‐ 土は粘土質の赤土。そこにコケや小石が散らばっていて、その上をアリが慌てたように這いまわっている。
‐ 太陽は出ているが、霞と湿気で日差しは弱い。
‐ 休日に遊びに訪れているフィリピン人の家事労働者の集団とその家族。彼らの話し声と笑い声が静かに聞こえている。


次に、あなたの質問によって湧きおこった私自身の子供時代の「ひとひらの雪片」について、以下にまとめました。

一緒によく遊んだ友達はエマ。彼女は私より2つ年下で社交的の、いつ見ても美しい少女でした。大きな瞳に長い黒髪、そして人を惹きつける笑顔。虹のように色とりどりの魅力を備えた人。私は大人しい性格でしたが彼女の前ではよく笑いました。
私が語る物語を彼女は気に入ってくれたものです。私のほうも彼女を前にすると嬉しくて、物語がどんどんファンタジー風になっていきました。また、その物語を実際に演じることもありました。彼女がお姫様役で私がオオカミ役の物語もありました。

私たちは同じ通りに住んでいて、向かい側には羊や牛のいる原っぱがあり、よくそこで遊びました。草が長く伸びると、決まってする遊びがありました。原っぱの上をいっせいに掛け出し、ふと草に寝転がり姿を消します。遅れて寝転がったほうが、先に寝転がったほうを探すというゲームです。原っぱの先には戦時中に作られた防空壕がありました。暗い穴に向かって階段が続いており、そこにはスズで出来たフタ付きの空気溝がありました。エマはそこへ行くことを親から禁じられていましたが私は禁じられていなかったので、結局二人で行きました。原っぱのさらにその先にはトネリコの巨木があり、その下に座るのが好きでした。数年前に伐採されてしまいましたが、ふるさとに帰るたびに木の不在をさみしく噛み締めています。畏敬の念を抱かせてくれた木でした。

私の一番好きなオモチャは「トルーディ」という人形でした。ボロボロになるまで抱いたものです。伯母が編んでくれた人形で、中に詰めた綿が内臓のように出かかっていました。私がトルーディに編んだ赤いスカーフがあり、その先っぽをよく指でいじって感触を楽しみました。

ひどいケガをしたのは(10歳より前に)、エマと私と妹と飼い犬を、母がファウンテン・ズアビーという古い修道院跡まで散歩しに連れて行った時のことです。「ブランディ」と名付けた犬は(種類はスパニエル)体が小さく、出くわした2匹のロットワイラーににらまれてしまいました。私の後ろにいたブランディ目掛けてロットワイラーがいっせいに飛び掛かり、私の足にリードが絡まってしまったのです。何メートルも犬に引きずられ、摩擦熱でヒザをケガした結果、病院まで泣き叫んで行くはめに!

服装について。夏は半ズボンにTシャツ、冬はジーンズにセーター。母はドレスを着せたがりましたが、お気に入りはたった一着だけ、白地にアイスクリームが3つ刺繍してあるドレスでした(今もアイスクリームが大好きです)。子供の頃は色とりどりの服を着ましたが、十代になってからはブルー一色となりました。いつかエマとエマのお母さんと旅行に行った時に、私の服が全部ブルーだったので、エマのお母さんにからかわれたことがあったほどです。

好きな香りはラベンダーです(色がブルーだからではありませんよ!)。まだ6歳の頃にフランスのプロバンスを休暇で訪れた時のラベンダー畑を思い出します。小瓶に入った(とてもちっちゃい)ラベンダーの香水を買ったものの、使いきってしまうのがイヤで一度も使いませんでした。今でもきっと小瓶は満タンでしょう。

色鉛筆もクレヨンも好きですが、学生時代、万年筆を使うよう勧められていたせいか万年筆が好きです。万年筆にかける力の強弱で、インクの描く形が違ってくる様子を面白く眺めたものです。今は墨絵が好きです。とても興味深いアートの形だと感じています。ひと息を、その一瞬を、カプセルに閉じ込めたような。

そう、私は恥ずかしがり屋で、ひとりで大人しく、もの思いに耽るのが好きな子供でした。それをある程度は楽しめましたが、自信がなく、他人にはマジメすぎると思われることがあったようです(私を笑わせてくれるのはエマだけでした)。

母に隠していた秘密は・・・たくさんありました!母は決まって、私から正しい答えを引き出す質問をしました。「〇〇したわね、そうでょ?」「△△しなかったわね、そうでしょ?」と聞かれるので、いつも母の望む答えを出すはめに。「それがお母さんの手なんでしょ」とからかうこともありました。ある時、部屋のカーペットを焼いて穴を作ってしまい、何年もの間ビーンバッグ・チェアで隠していました。ついに見つかった時、母にひどくしかられ、珍しく強く叩かれました。ビーンバッグ・チェアで隠れていたし、誰にも知られることはなかったのに、なぜそこまでされるのか理解できませんでした。

宝物は、バイオリンの先生のスタン・ホロウェイ氏にもらった本です。先生はウィットに富んだスコットランド人。本はロバート・ルイス・スティーヴンソンの『誘拐されて』の古いハードカバー版でした。すでに読んでいて大好きな小説だったので、何章分も暗唱できるほどでした。私があまりに情熱的にその物語を愛していたので、先生は自前の本をプレゼントしてくれました(冒険、誠意、友情を描いた物語です)。舞台がスコットランドの高地だったので、登場人物と一緒にいることを想像しながら、母と二人してスコットランドの散歩を楽しみました。川をぱしゃぱしゃと渡ったためにジーンズをずぶぬれにして散歩から戻ったものです。でも気分は最高にハッピーでした!

アンナより


Re: たった今
徳重秀樹

To アンナ | E-mail
03/22/2017 12:23

アンナ様

先週の日曜のあの瞬間を決して忘れません。
すべての音ははっきり聞こえ、すべては輝いていました。
近所にある運河の土手に東を向いてすわった僕は、南西の方角にもうひとつの存在を感じていました。
いつものありふれた日曜の午後でありながら、それは特別な瞬間でした。
僕にとって初めての経験でした。

あなたの出してくれた答えは完璧です!
頬に草が触れ、 指にラベンダーの瓶の冷たさを感じ、膝の裏にリードが当たる痛みを僕も感じました。そして目の前に、大きなトネリコの木があらわれるのも感じました。
あなたの子供時代の視点となって観ることができました。
あなたのことをもっと教えてくれませんか?時間がある時でかまいません。

エマとは何か贈りものを交換しましたか?
ラベンダーの瓶はどこにしまっていましたか?その隣には何がありましたか?
バイオリンを習っていた場所は先生のご自宅ですか?
あなたは背が高いほうですか?
初めて自転車に乗った時のことを覚えていますか?
ロバート・ルイス・スティーヴンソンのような小説家になりたいと思ったことはありますか?
エマに話して聞かせた、お姫様とオオカミの物語の内容を覚えていますか?
犬のブランディと散歩に行きましたか?
何か癖はありますか?悪い癖など。
何かに対してコンプレックスを抱くことはありましたか?
初恋はいつでしたか?
初めて飛行機に乗ったのはいつですか?
子供の頃に見た夢を覚えていますか?

秀樹より



Re: たった今
アンナ

To 秀樹 | E-mail
04/10/2017 22:31

秀樹様

あなたのあのひとときの映像、とても気に入りました。遠くでチャイムが鳴る音が聞こえ、水辺のそよ風まで感じられそうでした。

私は今、ベトナム北部のハザン省に休暇で来ています。田んぼからは様々な音が耳に届きます。カエル、セミ、朝には雄鶏、そしておなかをすかせたブタが高い声で鳴いています。

あなたの質問に答えますから、あなたの「ひとひらの雪片」について私にも聞かせてもらえませんか?
初めて作ったアート作品はどんなものでしたか?紅葉にまつわる思い出は何かありますか?子供時代のお友達とのエピソードは?昔から習慣としていることは?静かに考え事をしたい時に行く場所は?

エマと私はお互いの時間と遊びを共有しましたが、贈りものをした記憶はありません。私が14歳の頃、彼女のお母さん(アブリル)から白い磁器で出来た人形をもらいました。ハトの翼に触れようと背伸びをしている女の子の人形でした。とても美しかったのですが、落としてしまい人形の指が数本欠けてしまった時は落ち込みました。

小説家や詩人になりたいとは思っていました。とにかく書くことが何よりも好きでした。これまで自分の本を数冊ほど出版しましたが、フィクションではありません。未来への抱負、ビジネスや社会の模範について、更にはアートからも着想を得た本です。子供の頃に書いた詩の中に、いとこの結婚式のため用意したものを思い出しました


来る年も
自然界に、めとられ
樹木の娘となり
指輪でもって
婚礼に王位を授ける

「誓います」と
二度と聞かれることのない言葉
毎年、更新される指輪
でも心は木の根のごとく、ぶれず


いいえ、私は背は高くありません。妹のルースのほうが高く、エマにいたっては現在は私の身長を超えてしまいました!

犬のブランディを散歩に連れ出しましたよ。オールド・ホリンズ・ヒルという曲がりくねった小道を下ると、その先に郵便局と、ちっちゃな教会、そして小川とパブがあるエスホルトという村がありました。帰りは森の中を通りました。松の木やツツジの森にはたくさんの小道や影があり、たくさんの音がしました。あの森が大好きでした。

私の初恋と悪癖については次回に語ることとしましょう。さあ次はあなたの番ですよ!

アンナより


Re: たった今
徳重秀樹

To アンナ | E-mail
04/29/2017 18:42

アンナ様

僕の質問に答えてくれてありがとう。あなたの「ひとひらの雪片」にはいつも心が満たされる思いです。

あなたのベトナム旅行の話をよんで、僕の子供時代を思い出しました。僕たち一家は祖父母の家の近くに住んでいました。 祖父母の家の脇にはニワトリ小屋があり、庭には池がありました。全て祖父のお手製でした。夏の夜にはカエルが鳴き、朝はニワトリが歌い、日中にはセミの声が響きました。すべて子供時代に僕が聞いて育った音です。

はじめてのアート作品は幼稚園の頃に作ったカメラです。幼稚園では面白いイベントがあり、子供たちでバザーを開いたりしました。偽のお金を使って手作りのものを売り買いしました。僕はカメラを作りました。ボディはお菓子の箱、レンズはヨーグルトのカップ、そしてファインダーはガムの小箱。自分で買いたいほどお気に入りだったので急いで店に駆けつけたのですが、すでに他の子に買われてしまった後でした。あのカメラが、はじめて売れた僕のアート作品です。

僕もバイオリンを習っていましたが、練習が大嫌いでした。友達とサッカーをして遊ぶほうがずっと好きでした。毎週金曜の夕方になるとサッカーを抜け、母の車でレッスンに向かいました。僕の乗った車を、友達はずっと追いかけてきたものです。かれらの姿が徐々に消えていく様を、車の後ろから眺めていました。

バイオリンを弾くたびに、なにか不思議な感覚に襲われました。バイオリンを構えると足先が見えなくなる、その状況を不安に感じたのです。自分の足がなくなっていないかどうか確かめるために、弾きながら足を床に擦りつけるのが僕の習慣となってしまいました。

祖父は校長先生でした。もの作りが好きな人で、本当は職人になるか農業を営みたかったようです。でも戦争が行く手を阻みました。そこで、趣味でみかん畑を始めました。冬になると僕たち一家は収穫をしたものです。木登りが好きだった僕は一番高いところまで登ると、横になっているみかんをむいで食べました。みかんの黄色と橙色のあたたかみはまるで太陽のよう。木の上から眺める空、海、船、森、みかん・・・全てが静かで穏やかでした。

あなたと思い出を分かち合うことができて嬉しいです。

我々は宇宙の「ひとひらの雪片」。この世では誰もが生を受け、その生をまっとうし、死んでいく。もろくはかない存在です。でも僕たちは今、こうして存在している。思い出はその証しです。あなたの思い出やエピソードを僕は忘れません。

初めてメールをもらった時、あなたについてもっと知る必要がありました。骨でアートを作るのは一つの結果にすぎません。あなたの人生そのものをアートにしたいと考えています。このプロジェクトはすでに始動しています。また近い将来、このようなやりとりができるよう願っています。

ありがとう

秀樹より




Re: たった今
アンナ

To 秀樹 | E-mail
09/12/2017 00:21

秀樹様

最後のやりとりから、ひと夏が過ぎてしまいましたね。何か収穫はありましたか?今、どこにいますか?

私はというと、言葉を使った新しい旅に出ることにしました。「月のもの」宛てに手紙を書き始めています。もう一年ほどご無沙汰ですが無理もありません。心と体がちぐはぐで、やっていくのに精いっぱいな時期がありました。

あなたは、どんな旅に出ましたか?

私はシンガポールを去り、今は香港にいます。毎朝、海からランタオ島と九龍の丘を見渡しています。

あなたは何を眺めながら朝食をとっていますか?

心をこめて
アンナ


Re: たった今
徳重秀樹

To アンナ | E-mail
09/20/2017 18:00

アンナ様

新しい旅に出られたようで僕も嬉しいです。環境を変えるということは、視点を変えることにつながります。新しい風が幸運を運んできてくれるといいですね。

この夏はずっと骨を取り出し、きれいにする作業で終わりました。
来年3月にNYのギャラリーで個展を開く予定で、毎日その準備に追われています。

骨花を作るのにネズミを使うのは原始的な哺乳類だからです。骨をとる際にはネズミの肉を少し食べるようにしています。ものを食すことは日常の愉しみですが、これは命を頂くことへの罪を再認識するための行為だと捉えています。

レヴィ=ストロースはエッセーの中で「肉を食べることはカニバリズムと同じことだ」と言っています。
神話の世界では、 我々人間も動物も同じです。互いになり替わることもできます。人間も動物なので、かれらの肉を喰らうことは自分自身を喰らうことを意味します。

我々の命には限りがあるため、時間を使うことは自身の体の一部を差し出すことなのだと思います。例えば、このようにメールのやりとりをする行為は、互いの体の一部を交換しているのと同じことです。こうしたやりとりの関係を、アート作品に反映できればと考えています。

それから、この夏のあいだ、あるふたつの数字について考えていました。

人間の骨はいくつあるか知っていますか?では国の数は?(僕は知らなかったけどあなたなら知っているかも)
これらふたつの数字が似ていることに気がつきました。どちらも正確な答えはもたず、我々の捉え方に委ねられています。

国が世界の基盤ならば、骨は体の基盤。このふたつを関連づける方法についてもう少し考えをめぐらせてみようと思います。

敬意をこめて
秀樹


秀樹、LinkedInを開始
01/23/2018

アンナ
To 秀樹 | Linktedin
01/23/2018 17:35

不思議ね、ふと、あなたのことを考えていました。


徳重秀樹
To アンナ | Linktedin
01/23/2018 17:44

僕も時々、あなたのことを考えます。
また話せて嬉しいです。


アンナ
To 秀樹 | Linktedin
01/24/2018 12:00

私も!香港を散歩中にこんな木の根を発見。あなたは今どこですか?

tree

徳重秀樹

To アンナ | E-mail
01/27/2018 19:53

アンナ様

LinkedInで再会する前日、東京では雪が降りました。

本物の「ひとひらの雪片」です。
あなたの思い出話をいまもふと思い返すことがあります。特に身体的な体験のものを。エマと寝転んで遊んだ時の草の匂い、ファウンテンズ・アビーで犬のリードがこすれた時の脚の痛み、大きなトネリコの木の下に座った時の冷たく湿った土の感触。(あなたは巨木が好きでしたね!)​

人は皆それぞれ思い出があります。人口が増えると、そのぶん思い出も増え続けるいっぽうです。雪は融けると水となり、雲となり、この世界を循環します。ではいったい我々の思い出はどうなるのでしょう?いつか、あなたの思い出を他のひとに伝えようと思います。あなたや僕がこの世からいなくなったあとも、僕らの「ひとひらの雪片」が循環できるように。こうしている間もたくさんの「ひとひらの雪片」が生まれ、宇宙に瞬いている。そのことが重要なのです。まるで奇跡!素晴らしいとしか言いようがありません!

あなたとのメールのやりとりをHTMLにしてみました。確認してもらえますか?
これまでのビデオ映像なども追加しました。

敬意をこめて
秀樹





Re: 雪
アンナ

To 秀樹 | E-mail
01/30/2018 14:46

秀樹様

二人のやりとりをまた読むことができて嬉しいです。残しておいてくれてありがとう。「確認する」とはどういう意味でしょう?証印で?インクで?それとも血で?メールを読んでいる時にオレンジを食べていたのでジュースを絞り出して印でもつけようかと思いましたよ。

あなたが添付してくれた映像の中でそよ風に乗ったチャイムの音を聞いて、大好きな場所を二か所思い出しました。ひとつはクロアチアのザダルの海岸。その遊歩道には「海のオルガン」が建てつけてあり、波が流れ込むとうなるような音がします。もうひとつはメイン州のモンヒガン島。ベルのついたブイが海に浮かんでいます。

ベルの音を聞くたびに郷愁をさそわれます。

あなたの「ひとひらの雪片」の話を聞くにつけ、私もあることを思い出しました。バイオリンを弾きながら足を床に擦りつけたという話です。私も子供の頃、「足の指をゴニョゴニョ動かす」(母の表現です)のが好きでした。足の親指を2番目の指に押し付けて動かすと、なぜか安心しました。文字どおり「地に足がついている」ようで!先週、アイアンガー・ヨガ教室に行くと、トリコナーサナ(三角のポーズ)に入る際、ジョージ先生から足の指を見ないようにと指導されました。「足はなくなっていないと信じてください」とも言われました!

意識的な「カニバリズム」についてのあなたの見解、興味深く拝読しました。「食べる」ことは「食べたものになる」ということね。あなたはネズミになり、ネズミは花になる。最近、中国の小説家、遅子建の本を読みました。中国の北東部に暮らすエヴェンキという遊牧民について触れたものでした。この民族の間では、人間や動物、特にトナカイ、そして木の魂が互いに、しばしば入れ替わると信じられているそうです。そういう意味では、植物を食べても「カニバリズム」になるのかもしれませんね。

いよいよニューヨークでの個展の日が近づいてきました!楽しみですね。
その後、国の数と人間の骨の数をリンクする方法について、更に熟考されましたか?興味深い比較です。解釈の問題もあるし、微妙な違いをどこで分けるかというところですよね。私の父は数学者なのですが、最近、父にこういう質問を投げかけてみました。「なぜマイナスの数字を掛け合わせると、プラスになるの?」と。個人的には道理に叶っていると思いますけどね!父は代数を使って説明してくれましたが、要は計算をするうえで便利な決まりごとだということだと気づきました。

algebra

2週間後、週末にかけて日本を訪れる予定です。あなたはそこにいますか?

敬意をこめて
アンナ

アンナ・シンプソン

Anna

アンナ・シンプソン(1983年生まれ)は現在、個人として、または社会として、人々がいかにマインドフルでいられるかについて考え、実行することに心血を注いでいる。企業や社会の未来について語った本を2冊出版。複雑な環境下で変化に順応できるようイノベーション・コーチとして人々を指導。また、持続的な変化を追うオンライン・コミュニティー、「フューチャー・センター」のキュレーターでもある。彼女の最新作“The Innovation-Friendly Organization”(2017)(仮題:『イノベーション・フレンドリーな組織』)では、いかにして組織が変化を歓迎できる文化を培えるかについて語っている。“The Brand Strategist’s Guide to Desire”(2014)(仮題:『ブランド戦略家による欲求への手引』)では、ブランド企業に、短期間の売上よりも長期間の達成感に重きを置いてみるよう提案している。過去にはジャーナリストとして、持続可能な解決策について語る雑誌「グリーン・フューチャーズ」の編集者として活躍。イギリス育ち。オックスフォード大学で国語(英語)とフランス語を学んだ後、東洋アフリカ研究学院にてジェンダー研究の修士学位を取る。

徳重秀樹

Hideki

1974年、鹿児島市生まれ。現在は東京を拠点に活動。
2004年、道に死んでいたたぬきを拾い、家に持ち帰る。中学校の理科の先生が書いた解剖の一般書「骨の学校」だけをたよりに、解剖を初めて試みる。最初は素手でさわることも、目を合わすことさえできなかった。その体験は、いかに自分が生き物の体について何も知らなかったかを作家に気づかせた。たぬきも人間もおなじ哺乳類である。つまりそれは、「わたしは自分自身のことを何も知らない」ということに気づいた瞬間だった。
2008 年、骨花制作を始める。たぬきの解剖経験から、使う骨は哺乳類である必要があった。哺乳類のもっともオーソドックスな骨格をしているネズミ類の骨を使うことに決める。フォークリフトドライバーをしながらその後骨花を4点作るが、作品の発表や人に見せたことは一度もなかった。
2011年、アートイベントYOUNG ARTISTS JAPAN Vol.4 に生まれて初めて作品を発表。そこでグランプリを受賞。アーティストとして活動を始める。

あなたの人生を知らずにアート作品を作ることはできません。

生命を分解し、アートとして再構築することで作品をつくる徳重氏。めまぐるしく発達する科学や環境の変化が人体に大きな影響をもたらす今、私たちもまた自分自身の人生を分解し、再構築する必要があるのかもしれません。例えば食べものや仕事を分解し、再構築してみる。いっそ「骨」から始めてみてはいかがでしょう?

アンナ

私が骨花になりたいか?

私はかねてより「転生」という概念に興味がありました。どの人生にも、どの瞬間にも 未知の世界が宿っています。その構造を意識することで、人生や瞬間を吟味し、自分にとって新しい可能性を見出すことができるのです。この考え方を不健全だと思ったことはありません。自分を多面的に見られないほうがむしろ不健全なことでしょう。

アンナ

鋭い牙も翼も持たない人間にとって、最大の能力は想像力です。

徳重氏が書いた「鋭い牙や翼を持たない人間にとっての最大の能力は想像力である」という一行に全てが集約されています。ネズミの死骸を見て、霊妙な花になるまでの道のりを想像する…。想像するにとどまらず、実際につくってしまうとは!我々全員がこの内的な作業をおこなうべきだと思います。これは自身をつくり変える作業につながります。

アンナ

僕たちの人生だって、たった一度きりだとは誰にもいえないでしょう。

そのためには「新しい、ものの見方をすること」が必要になってきます。社会が対立し割れる昨今、共感する心の重要性が叫ばれています。互いをより良く理解したければ、一旦黙り、相手の話をよく聞き、気持ちをオープンにしなければなりません。長年にわたり培ってきた考え方や憶測に変化をもたらすのです。しかし、これは大変難しいことです。まるで、一度バラバラにした骨を元に戻すような作業になるでしょう。

アンナ

私はというと、言葉を使った新しい旅に出ることにしました。「月のもの」宛てに手紙を書き始めています。

『ダイアローグ』の中で話題は多岐にわたります。骨から肉へ。私が徳重氏に女性にとってプライベートな「生理」について打ち明けたことに驚いた人がいるかもしれません。自分自身の「生理」宛てに手紙を書いていることを彼に打ち明けたのは、私には、ごく自然のことのように感じました。生理宛てに手紙を書くことで、自身の内なるサイクルを意識して関係を強めたかったのです。食生活の乱れと心身の疲れ、そして私生活のトラブルによるストレスが重なり、体を気遣うことを忘れていました。この気持ちを文章にすることで私は癒されました。
実は生理の話を徳重氏に打ち明けたことと、彼の作品との間に面白い相乗作用があることに気づきました。アートのために彼に骨を捧げられても、血は捧げられないなんて、おかしくありませんか?かつて多くの女性アーティストがこの実験をおこなっていて、ジェンダーの理論家たちも、女性の体と社会が分かち合うべき領域との関係について研究を進めています。

アンナ

骨をとる際にはネズミの肉を少し食べるようにしています。

徳重氏にとって自身の作品の命を「味見する(取り込む)」ことが大事なのでしょう。それがネズミの肉を食すことだったり、私の思い出(「ひとひらの雪」)を分かち合うことだったり。これこそが心の底からの「共感」と言えるでしょう。

アンナ

こうしたやりとりの関係を、アート作品に反映できればと考えています。

一見、思いつきで触れた私の「生理」の話と、徳重氏の作品との間に思いのほか多くの相乗作用がありました。例えば彼の骨花「乙女椿」。乙女椿の花には赤と白の色素が見受けられます。ちなみにアレクサンドル・デュマの小説『椿姫』の中で高級売春婦であるヒロインが恋人に生理中であるか否かを示すために同じ種類の赤か白の花を身につける場面があります。徳重氏と私の『ダイアローグ』はいわば、11か月という歳月をめぐる周期です。人間 対 人間のやりとりは、「流露(感情のほとばしり)」に始まり、「待機」を経て、まるで歌のような「呼びかけ」と「応答」だとも言えるでしょう。

アンナ

微妙な違いをどこで分けるかというところですよね。

今日では監視体制が発達し、私たちの情報は勝手に選び取られています。日常の中、空港や会社でも顔認証やボディ・スキャンが習慣となりつつあります。更には健康管理のために開発されたものが、私たちの自宅、冷蔵庫、トイレやバスルームにも存在します。『ダイアローグ』を通して徳重氏が、ある問いを投げかけます。「死は誰のものなのだろうか?」 すると私の中に自ずと次の疑問が湧いてくるのです。「生きている間、この体は誰のものなのだろうか?」と。

アンナ